2010年11月15日月曜日

Apple 戦略論

Jobs 率いる Apple の経営戦略が優れていることは多くの方が認めるところです.一方で Apple に比べると日本メーカー各社はうまくいっていないように見えます.このことから, Jobs の経営戦略,とくに Apple を追い出され NeXT を設立してからの戦略の本質が何なのか?について私は多大な関心を寄せています.


私が考える Apple の経営戦略の本質はがコア資産か」についての長期ロードマップを考案し,それを徹底して実践したことだと思います.プロダクトラインにおいてコア資産は,ムーアの言うキャズム(early adopter に売れてから early majority にも受け入れられるまでに存在する大きな「溝」)を超える橋頭堡としての役割も担うと私は考えます.私の仮説は,Jobs は最初に手を付けるべきコア資産(橋頭堡)として OS を選択したのではないか?ということです.


まず1985年の NeXT 設立時に Jobs はニッチ市場として高等教育向けハイエンドワークステーションを選びます.おそらく当時は競合も少なく,ニッチとしてもある程度の魅力があったのでしょう.


1985年前後は PC 向けに MS-DOS が主流の時代でした.日本で組込みシステム用の OS として現在も普及している ITRON の最初のバージョン ITRON1 の仕様策定開始が1984年のことです.またゲーム機の状況はファミリーコンピューターの発売が1983年です.

当時の状況では,計算機資源的に NeXT が狙うハイエンドワークステーションと組込み OS が同じアーキテクチャであることはあり得ません.しかし,ムーアの法則が提唱されたのは 1965 年のことなので,思考実験としてはハイエンドワークステーションのスペックが,いずれは家電にも導入される時代が来ることが机上では予見可能です.実際,プレイステーションの発売が1994年のことで,スペック的には NeXT と同等(あるいはそれ以上)と考えられるので,だいたい10年くらいで NeXT が家電化する時代がやってきたことになります.

この時点で Jobs がどこまで長期ロードマップを考えていたのかは明らかではありませんが,既に Jobs の想像力が家電まで及んでいた可能性はあります.世間に広まっている伝説では,少なくとも Apple に復帰して NeXT を買収する1996年頃までには,iPod に代表されるデジタル家電への進出を視野に入れていたと言われます.さらには NeXT STEP を Mac OS X として取り込む際に,将来 Mac OS X を Mac だけではなく家電の OS として使うことも想定していたとも言われています.これらについては真実を検証することはまず不可能です.しかし,もし今,自分たちのポジションで Jobs のように先を予見するとしたら,何をコア資産とするか?を考察する上で参考になるかもしれません.

このように Jobs は OS を橋頭堡として選んだのですが,Jobs の先見性はむしろ OS の上に載せるアプリケーションやサービスのレイヤーにあります.Jobs のデジタル家電構想により,未来を先取りした生活の中に息づくマルチメディア家電が iPod を皮切りに次々と創造されていきます.これらは OS のレイヤーだけを見ているのでは,けっして生み出せないしろものです.OS のあるべき姿を,OS 以外のレイヤーの将来像を考察することにより創造したのです.

もし日本メーカーの中で Apple に対抗するとしたら,よく名前が挙がるのは Sony でしょう.Sony には Jobs 率いる Apple を封じ込める可能性はなかったのでしょうか?

私はあり得たと考えます.鍵となるのはプレイステーションです.

プレイステーションの登場は1994年のことでした.私は当時の興奮を今でも覚えています.ちょっと前のスーパーコンピューターと同じスペックが,ゲーム機に惜しみなく投入されているのですから.プレイステーションが繰り出す映像や音響は,それまでのスーパーファミコンとは別次元のものでした.これは革命的といって過言ではありません.

しかしその後プレイステーションが進化するにつれて,初期の衝撃はどんどん薄れていくように感じられました.私が感じたのは,プレイステーションシリーズがもたらす新しいゲーム,新しい生活が,それほど革命的なものではない,今までの延長線上にすぎない,想像が容易につくものだということです.

今にして思えば,プレイステーション3で打ち出した Cell を中心とする情報家電への展開の構想は,もっと前にプレイステーション2の時代に行うか,あるいはプレイステーションポータブルを中心に据えるべきでした.そして Cell プロセッサそのものへの投資よりは,ソフトウェアとくに OS や基本アプリケーションへの投資を中心にするべきでした.おそらくプレイステーションでの成功体験が強すぎて,それまでの延長線上でしか思考していなかったのでしょう.だから,プレイステーション3がもたらした新しい生活は,革命的でない,今までの延長線上のものだったのです.

Cell に関して言えば,ゲーム機からの要求・制約と,家電からの要求・制約の両方を満たそうとするあまり,どちらにも中途半端なものになったのではないでしょうか.そのため,ゲーム機は任天堂の Wii にかなわず,家電は Apple にかなわずという結果でした.

任天堂も Apple も共通項として,ハードウェアスペックでは勝負せず,それぞれのサービスがどうあるべきか?を真剣に追求して勝利をつかんだのは,私にとって大変興味深いことです.少なくとも今の時代は,サービスとか価値とかを真正面から捉えないと勝利はおぼつかないのかもしれません.



(社)トロン協会 ITRON専門委員会, Introduction to the ITRON Project - Open Real-Time Operating System Standards for Embedded Systems -. http://www.ertl.jp/ITRON/panph98/panph98-j.html#SEC4





2010年11月13日土曜日

9つの価値

現在,卒業研究のテーマを議論しながら決めているところです.その議論の過程で,私はとても重要なことに気づかされました.

それは,私にとって研究テーマは,私の理想とする価値に向かっていさえすれば,どんなテーマでもかまわないということです.だから,研究室のドメインを決めるとしたら,テーマによってではなく,価値によって決めるべきなのです.

そこで,今まで行った研究テーマ,これから取り組みたい研究テーマを思い浮かべながら,私にとって重要な価値とはどのようなものなのかを考察しました.それが次の9つの価値です.
  • 革新的なものやサービスを創る
  • みんなを Happy ! にする
  • エンドユーザーが何を欲しがっているかくみとる
  • 既成の(文理・産学・分野)超える
  • 少人数の組織で大規模なものを開発する
  • 様々な観点を統合し価値の高いものやサービスをつくる
  • 個性に合わせた長所を伸ばす教育をする
  • 上流から下流まで一貫する
  • 誰にとっても使いやすく理解しやすいモデルをつくる
これら9つの価値のうち,1つ以上の価値を目指していれば,テーマは何でもいいのではないかと今のところ思っています.もっと他にも大事な価値はあるかもしれませんが,数的にも9つくらいまでが順当だろうと思います.

今回の記事では,あえてこれら9つの価値について詳しく説明するような野暮なことはしません.また,それぞれの価値を支える基礎理論についてもいろいろ蓄積していますが,それについてはおいおい取り上げていくかもしれません.

最後に,もしこれらの9つの価値のうちのいくつかに賛同する方,ぜひ一緒に研究をしませんか? 9つの価値にも取り上げているとおり,研究室,分野,産学,文系・理系など,既成の枠を超えて取り組みたいと思います.

2010年10月29日金曜日

これからの思考の教科書 ~論理、直感、統合ー現場に必要な3つの考え方~

ついに,求めていた本が見つかりました.

これからの思考の教科書 ~論理、直感、統合ー現場に必要な3つの考え方~

この本の主張は,縦の思考(ロジカルシンキング: logical thinking)だけでなく,横の思考(ラテラルシンキング: lateral thinking)も必要だということ,最終的には統合思考(インテグレーティブシンキング: integrative thinking)を目指す必要がある,ということです.縦の思考と横の思考の関係は,ちょうど縦の思考がツッコミで,横の思考がボケに相当します.

今は誰もがロジカルシンキングを重要だとしていますが,現代のようなインターネット社会/グローバル社会で情報が均質化していく状況では,ロジカルシンキングだけでは誰がやっても同じ解しか得られません.

その限界を超えるために必要なのがラテラルシンキングです.創造的な仕事はあまり定石がないと思われがちですが,実は世の中に発想法の類いは何百種類とあるそうです.そういうツールを生かしつつ,たとえば今まで誰もが試さなかった組合わせを試すというようなことで,ロジカルシンキングの限界を超えるわけです.

この本に難点をつけるなら,具体的な手法が数種類しかあげられておらず,しかも基本的な使い方に終始していて,深く突っ込んだ活用方法があまり見られなかった点です.(早とちりでした.たしかにラテラルシンキングやインテグレーティブシンキングについては数種類しか紹介されていませんが,ロジカルシンキングについてはたくさん,しかもきちんと整理されて紹介されています.) しかし,パズルのピースを探していた私にとっては,先に紹介したフレームワークだけでも十分価値があります.

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最近,私の強みをずっと考えていたのですが,分野と分野をまたぐ,文系と理系の枠を越える,産業界と学術界をつなぐ,そういったところに強みがあるように思います.仮にそうだとすると,これからすべきことの1つはラテラルシンキングのツールを収集し,得失を分析して,活用方法を編み出し,さまざまな局面で実践することだと思います.

そういった明確な方向性を与えてくれたという意味で,私にとって大きな価値のある本でした.



Twitter での感想

2010年10月23日土曜日

ロジカル・プレゼンテーション 〜 自分の考えを効果的に伝える戦略コンサルタントの「提案の技術」

今回紹介する本は,ロジカル・プレゼンテーションです.

プレゼンテーションと言っても,PowerPoint の作り方といった内容ではありません.「提案」そのものを,論理思考力,仮説検証力,会議設計力,資料作成力の4つの観点から,どのように緻密に構成していくかという話です.

論理思考力とは,A ならば B であるという論理があったときに,その論理を相手に心から納得させるための技術です.たとえば,論理に抜け落ちている観点や飛躍があったりすると相手は納得できません.この本では,縦と横の論理という整理法で論理を形成する技術を紹介しています.

仮説検証力とは,まず相手の疑問を知り,次にその疑問に対して答えるための技術です.この本では,この一見当たり前に見えることが,実際にはいかにできていないかを指摘しています.それを目的,論点,仮説,検証,示唆の5段階で進めることだ大事だと力説しています.

会議設計力とは,退屈になりがちな会議を,本当に実りある時間に変えるための技術です.この本では,会議しているという認識,会議の論点,提案全体の中での今回の提案の位置づけ,相手に合わせた論理という4つの観点から,会議の「着地点」と「着地スタイル」の設計をする方法を示しています.

資料作成力とは,提案内容を示す資料を効果的に作成するための技術です.メッセージ,チャート,スライド,パッケージ,マテリアルの5つにモジュール化された資料を作るべきだと述べています.

この本自体が上記の4つの観点で整理されたプレゼンテーションの模範例としてよくできています.企業向けのプレゼンテーションをする人全員が読むべき本だと思います.一方,はじめてプレゼンテーションを作る学生には抽象的で高度すぎる内容かもしれません.PowerPoint  をどう使ってどういう資料を作ってという本の方が有益でしょう.むしろ学生のプレゼンテーションをレビューする立場の教員の方が有用かもしれません.





2010年10月22日金曜日

OOP演習の進捗 (2)

授業が始まって3週目が終わりました.
今週はスケジュール的に厳しく,連載作家のように「落ちる!落ちる!」という恐怖に駆られていました.でも,たぶん来週は少しはプレッシャーが弱まると思います.

2010年10月12日火曜日

UML モデリングおすすめ書籍

UML モデリングの本で,かなりおすすめの書籍を2冊紹介します.


UMLによるオブジェクト指向モデリングセルフレビューノート


UML の主要な図について,レビューするときに見るべきポイントを丁寧に解説しています.復刊しないかなぁ.




「モデリング能力にはトレーニングが必要だ」との持論に基づいて,「アイスクリームをモデリングせよ」というような,頭が柔らかくないとできないようなお題が多数掲載されています.もちろん丁寧な解説付きです.

2010年10月8日金曜日

ペルソナ関連

奇しくも研究室の中と外でほぼ同時にペルソナ法が話題になったので,ブログに書こうと思い立ちました.

ペルソナ関連の基本文献を紹介します.

元祖 Alan Cooper の本




本の半ばくらいまでは,既存のコンピューターに対する愚痴です.それはそれで興味深い洞察で面白いのですが,手っ取り早く読みたい人は1,2章愚痴につきあったら,ペルソナ法の紹介の章へ飛んでも十分読めると思います.

The Persona Lifecycle


ペルソナ法の詳細を知りたいならこの本です.洋書は必ず買うべきです.というのは,和書は方法の紹介だけしか載っておらず,カラフルな写真やイラストを多用した事例紹介や,実際にすすめる上での重要なヒントなど,肝心な情報は洋書にしか載っていないからです.