2011年1月30日日曜日

「モノづくり」と「サービス」の統合〜サービス・ストラテジー

本書では「サービスとは何か」という問題から議論が始まります.伝統的な「サービス業とは産業全体から農業,工業を差し引いた残りである」という定義,ブラウニングとジングルマンによる詳細な分類の定義を紹介していますが,そもそもこのような分類には限界があると主張しています.それどころか,一般にはまったく別の産業と思われる「モノづくり」と「サービス」は実のところ表裏一体だと認識すべきで,それらの区分は人為的なものにすぎないと主張しています.
このような「モノづくり」と「サービス」を統合するような見方は意外と古くから論じらおり,本書では1972年のセオドア・レビット(Theodore Levitt)が元祖だとしています.セオドア・レビットというと,たとえば鉄道業は単なる鉄道業として狭く捉えるべきではなく,鉄道,自動車,航空機,船舶などを統合する概念である「運輸サービス」として広く捉えるべきだと主張した人物です.このように広義に企業の事業ドメインを定義することで,顧客がその企業に何を求めているのかを認識し,事業全体を顧客の視点に立って見直すことができるというのがセオドア・レビットの考えです. このような考え方に基づけば,「モノづくり」を単に製品を提供することと捉えるのではなく,その製品によってもたらされる価値を提供する「サービス」の一環だと捉えることがごく自然に思えます.
本書で取り上げているセオドア・レビットの主張[Levitt 1972]は次の通りです.
本来,サービス業などのというものは存在せず,どの業界もサービスとかかわりがある.他の業界と比べて比重が大きいか小さいかだけが違いなのである.
本書はこの考え方を拡張しています.まず「純然たるモノづくり」「純然たるサービス」をブラックボックスと考えて,その入力と出力が何かを考察しています.
次に,この考えを一般に拡張すると,たいていは「モノづくり」の要素と「サービス」の要素を併せ持っていると考えられます.そこで,サービスに関わる側面を表舞台,モノづくりに関わる側面を裏舞台と呼び,それらが連携して全体の事業を構成していると考えます.
本書の主張は,表舞台と裏舞台は緊密に連携しあうべきであることです.表舞台と裏舞台が緊密に連携しあうべき理由は,将来はサービスの比重が高まるであろうという予測です.予測の根拠の一例として,トヨタ自動車が提供する自動車の品質(モノづくり)とそれを販売するディーラーのサービスのどちらが顧客満足度に影響を及ぼすかという統計があります.ここからは「顧客を引きつけるのは性能だが,購入を決定づけるのはサービスである」ことが読み取れます.
本書では,表舞台と裏舞台をどのように緊密に連携させるかについて,この後に展開していきます.この議論の中で,(広義の)サービス実現の有望な一手段として,マスカスタマイゼーション(mass customization)やプロダクトライン(ソフトウェアプロダクトラインという意味ではなく製品系列という意味)にも言及しています.私もサービスとプロダクトラインの関係についてボンヤリと考えていましたが,本書によって確たるパラダイムとして私の頭の中に結晶化されたように思います.
[Levitt 1972] Theodore Levitt. “Production-line Approach to Service”. Harvard Business Review, September/October 1972. (サービス・マニュファクチャリング. ダイアモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー 2001年11月号所収)