2013年7月15日月曜日

2012年度の教育活動のふりかえり

2012年度の教育活動をふりかえりました.


【計算機演習I】

設定した目標
演習室環境の刷新に合わせてリニューアルします。担当範囲であるUNIXを含む演習室環境の操作方法とC言語プログラミングについて授業設計を行い,既存教材を最大限再利用して教材開発と授業の実施を行います。これらの施策によって「プログラミング嫌い」になる学生を減らすようにします。

総括

演習室環境が Linux から Mac に刷新されたことを受けて,授業設計を行い,教材を大幅に改訂しました.演習室環境の操作方法については教材を独自開発しました.またこの教材を他の学年の授業でも使用したことで,新しい演習室環境への移行に貢献しました.C言語プログラミングについては,教育工学の専門家である早稲田大学の向後千春先生の教材がこの授業に最も適切であると判断し,導入しました.さらに大福帳という学生と教員の間のコミュニケーションを円滑にする手法を取り入れて,学生の学習状況の把握に努めました.大福帳からは学生がプログラミングに意欲を持って取り組んでいる感触を得ました.2013年度からの新カリキュラムでは別の先生に交代することになったので,確実な引き継ぎができるよう心がけました.

【入門ゼミ】
設定した目標
学科全体でのグループディスカッション演習を全3回に拡大して実施する。同時に学生TAに対して積極的に指導し,能力開発を図ります。

総括
今年もグループディスカッションの演習を,情報メディア工学科70数名規模で実施し,学生らしい活気ある場を形成することに成功しました.とくに今年は学生TAが積極的に企画提案し,マシュマロ・チャレンジという,欧米を中心に急速に普及して注目を集めている取り組みを見つけてきて学生TA主導で実施しました.マシュマロ・チャレンジの反響は大きく,その後,2012年当時の1年生の有志が集まって,2013年度の新入生向けにマシュマロ・チャレンジを自主的に企画・実施しました.マシュマロ・チャレンジは,ひびきのキャンバスの新しい「伝統」になりつつあるのかもしれません.

マシュマロ・チャレンジについて紹介する TED 動画(日本語字幕あり): http://www.ted.com/talks/view/lang/ja//id/837

【プログラミング言語処理系】
設定した目標
授業評価が急速に悪化した原因を分析し,指導方法の見直しならびに学生に対するフォローアップの充実を図ります。

総括
授業評価アンケートの結果より,学生の理解・進捗度に合わせて授業を行なっていないことに対して不満が多かったのではないかという仮説を立て,大福帳を導入する取り組みを行いました.大福帳は,授業回ごとに学生が自由に感想や質問を書き,教師がコメントするというシンプルながら効果が高い教育ツールです.大福帳導入の結果,授業評価アンケートの各項目が0.3〜0.5ポイント程度向上しました.大福帳を導入することで,学生の学習進捗,とくにどこでつまづいているかが手に取るようにわかりました.そのことを利用して自習時間中に効果的に個別のフォローアップを行うことができました.次に,学生の個性とくに関心事を把握することができました.大人数講義では学生の顔が見えないものですが,どのような学生がいるのかを把握するのに有用な情報が得られました.さらに,学生が持つコミュニケーションに関する潜在能力を知ることができました.学生にコミュニケーション能力がないと言われて久しい昨今ですが,引き出し方次第でコミュニケーション能力を効果的に向上させることが可能ではないかと感心しました.この知見を広める目的で,ブログ記事として公開しました. http://zacky-sel.blogspot.jp/2013/03/daifukucho.html

【ソフトウェア設計論】
設定した目標
授業の完成度をより高め,完全習得学習の実現を目指します。また,この教育成果を元に論文発表や教科書執筆に結びつけます。

総括
期末試験において「1〜5機能程度の簡単な製品やサービスのUML図を読み書きできる」という実用上十分かつけっして低くない目標を設定しましたが,2年間で96%の学生が達成できるという教育効果の高い結果で,完全習得学習を達成しました.しかもMoodleを利用して授業中にとったアンケートでは「授業が楽しい」という声が多数寄せられました.この成果を北九州市で開催された国際会議 e-CASE 2013,ソフトウェア技術者協会教育分科会のワークショップ,熊本大学ランチョンセミナーなどで発表し,反響を得ました.さらに授業の完成度を高めるため,2013年度に向けてシラバスを改訂し学習目標を明確に定義し,授業計画を見直しました.

【オブジェクト指向プログラミング演習】
設定した目標
演習室環境の刷新に合わせてリニューアルします。また,採点ミスを未然に防ぐ施策を取ります。

総括
演習室環境が Linux から Mac に刷新されたことを受けて,教材を全面的に改訂しました.iPhone のソフトウェア開発ができるということで,学生の評判は上々です.また,採点ミスを未然に防ぐため,Moodle 上の採点を提出用の Excel シートに正確に転写できたことをチェックするプロセスに改めました.さらに2013年度に向けて授業内容を見直し,学習目標を明確に定義するようにシラバスを改訂しました.

【カーエレクトロニクス技術概論】
設定した目標
2011年度の方向性を維持し,さらなる改善に努めます。

総括
2012年度のカーエレクトロニクス概論の授業では,車載ソフトウェアで重要な地位を占めるソフトウェア・アーキテクチャについて扱うことにしました.普通の講義では学生の関心を引きつけられないと判断し,「反転授業」という最近教育界で注目を集めている手法もチャレンジしました.反転授業で何を反転するのかというと,授業と課外学習の役割を反転するという意味です.普通の講義では,授業時間中に知識を授け,課外で応用問題の宿題を行うのですが,反転授業では,e-learning などの予習資料を与えて課外で知識を授け,授業時間中では知識を応用するグループ学習などを行なうというスタイルです.実際に実施してみると手応えが大いにありました.この実験的成功を踏まえて,2013年度の大学院科目ソフトウェア工学概論で,反転授業を取り入れた独自スタイルの学習法を計画・実施することを決断しました.この知見はブログにも書きました. http://zacky-sel.blogspot.jp/2013/01/blog-post_9.html

【ソフトウェア工学概論】
設定した目標
ソフトウェア工学の専門外の大学院生にも理解できる授業を行う方針を継続し,学生のより深い理解につながるような学びの場を形成します。


総括
ソフトウェア工学の専門外の大学院生にも理解できる授業づくりとして,プロジェクト開発である点でソフトウェア開発と似たような特性を持ち,かつすべての大学院生が経験している卒業研究になぞらえたり,ソフトウェア開発がどのように行われるのかを体験できるワークを取り入れたりしました.Moodle を利用して授業中にとったアンケートでは,これらの方策を支持する学生の声が多数寄せられました.また,2013年度の新カリキュラムに向けて授業内容を見直し,わかりやすさは維持しつつ,より深い学びを促進するような仕組みを取り入れるようにシラバスを改訂しました.

【組込みソフトウェア】
設定した目標
特別講師と連携し,実践とくにプログラミングに関して強化するような教材を開発します。

総括
特別講師と教材を共同開発し,「技術そのものを学ぶのではなく,技術の学び方を学ぶ」というコンセプトに基づいて,組込みソフトウェア開発に必要な技術資料の読み方,設計・プログラミングのしかたを重点的に教える教材を作りました.独自アンケートでの学生の評価は高く,今後もこの方向性を強く打ち出していこうと考えています.この開発内容を受けて,2013年度に向けてシラバスを改訂し,学習目標を明確に定義しました.

【卒業研究指導・特別研究指導】
設定した目標
「学生に主体的に問題を発見・解決させること」を主眼においた研究指導を継続します。


総括
私の卒業研究・特別研究の指導方針は「学生に主体的に問題を発見・解決させること」としており,けっして私自身の研究の一部の作業を強いることはしていません.テーマの選定にあたっては学生と,将来どういう仕事をしたいか,どういう人物になりたいかの将来像をよく議論します.そして診断テスト等も活用して本人の適性についても議論します.卒業研究や特別研究そのものをゴールとするのではなく,人生の先を見通したゴールを設定し,その通過点として卒業研究や特別研究のテーマを決めます.一度の議論で決めるのではなく,最初の漠然とした希望から,適していそうな題材をいろいろ与えながら方針をすこしずつ固めていきます.2012年度に指導したどの学生についてもこのように研究を進めていきました.どの研究テーマも基本的に学生本人の発案によるものです.結果として,学生の積極的な主体性を引き出すことに成功し,特別な指導をしなくても発表会等に際し,自分の言葉でプレゼンテーションと質疑ができるように育てました.