2015年2月25日水曜日

授業づくりはまずコンセプトづくりから〜事例に学ぶコンセプトづくり

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コンセプトがはっきりしている製品やサービスは,そうでない製品やサービスに比べて使い勝手が良いことが多いですよね。同じように授業でもコンセプトをはっきりさせると学生にとって様々な利点が生まれます。

  • 授業コンセプトをはっきりさせると 「何のために学ぶのか」をイメージしやすくなります。 これにより学習内容と学習者の関連性(ARCSモデルのR)を見出しやすくなるので,学習意欲を喚起することにつながります。
  • 選択科目のコンセプトがはっきりしていると 学生にとってその科目を選ぶか選ばないかを判断しやすいです。 これによりミスマッチを防ぐことにつながります。
  • 授業コンセプトがはっきりしていると,その授業が成功したのか失敗したのかを評価する方針も定まりやすくなります。これにより授業改善の指針も明確になり,より成功しやすくなります。
  • 授業コンセプトがはっきりしていると,授業全体に一貫性を持たせやすくなります。一貫した授業は学生の満足度を高めるのに役立ちます。
本記事では授業コンセプトをどのように考えるのかについて,事例を紹介しながら説明したいと思います。

授業コンセプトの基本構成要素

授業コンセプトにはどのような構成要素があるのでしょうか。私は次のように捉えています。
  1. 授業内容の範囲
  2. 教え方の方針やスタイル
  3. カリキュラムの中での授業の役割や位置付け
  4. どのような学生が対象なのか
  5. その学生にどうなってほしいのか
  6. 学習手段として何を使うのか
またこれらは互いに関連し合っています。とくにコンセプトに一貫性を持たせるためには,このレベルでもきちんとデザインしておく必要があります。

授業コンセプトづくりのケーススタディ〜コンピュータシステムの場合

では事例を紹介しながら授業コンセプトづくりをどのように行うのかを見ていきましょう。最初の事例はコンピュータシステムです。次のスライドのコンセプトの部分をていねいに説明します。

最初に決めたのは,カリキュラムの中での授業の役割や位置付け

コンピュータシステムのコンセプトづくりで最初に決めたのは,カリキュラムの中での授業の役割や位置付けです。
コンピュータシステムは,2013年度から施行したカリキュラムの改定でプログラミング言語処理系とオペレーティングシステムの2つの授業を統合した科目として開講することが決まりました。カリキュラム改定の議論を学科で進めていく中で,この2科目を統合しようと言い出したのは実は私です。統合する理由としては,本学の学生がプログラミング言語処理系やオペレーティングシステムを実務で開発する業務に就くことは情勢から見て稀だと判断し,2科目に渡って詳細を学習させるよりも,より普遍性の高い基礎の習得に絞り1科目に統合して,空いた時間で他の科目を学ばせるようにしたほうがベターだろうと考えたからです。
また,コンピュータシステムには,より高次な後続科目群(VLSI系/組込みシステム系/ソフトウェア工学系)への知的好奇心を喚起するというカリキュラム上の役割も期待されていました。

2番目に決めたのは,どのような学生が対象なのかと学生にどうなってほしいのか

次に決めたのは,本学の学生の現状を踏まえて,どのような学生が対象なのかとその学生にどうなってほしいのかを決めました。
北九州市立大学のポジションは,古くから地域に根ざした公立大学です。入学試験の偏差値はちょうど平均値(50)前後で,センター試験も一通り課すことから,良くも悪くも得意不得意がはっきり分化していない平均的な学生が多いのが特徴の1つです。
このような特徴のない学生は現行の就職活動では不利です。そのため,学生たちが自分の得意なことを見出してほしいという思いがあります。
入学前のプログラミング経験についてアンケートを毎年実施していますが,高校以前からプログラミングを行っていたという学生は1学年70名の中で1〜5名程度であることが多いです。ほとんどの学生は大学に入学して初めてプログラミングを経験します。
一方で,今までの卒業生に目を向けると,情報学科出身なのにプログラミングが苦手,さらには嫌いになって卒業する学生も少なからず存在します。こういうプログラミング苦手意識を克服してあげたいという思いもあります。
そしてコンピュータや情報に関連する技術や社会環境は急速に進化しています。一旦学んだら終わりではなく,常に学び続ける姿勢が必要です。学生たちに自ら学ぶ力を習得させたいという思いもあります。
技術や社会環境は急速に進化するので,陳腐化も早くなってしまいます.そのような状況では,一旦学んだら終わりではなく,常に学び続ける姿勢を身につけることが求められます.また,整備された教材が常に用意されているとは限りません.適切な指導者もいないかもしれません.いつかは独り立ちしなければならない,それが宿命です.私たちは,教材がなく指導者がいない状態でも,自力で学び続けることができるように学生を育て上げます.
もちろん授業で学ぶ知識も大事ですが,それ以上に強い知的好奇心と学習意欲を持ってほしいという思いもあります。この思いは前述のカリキュラム上求められる役割と合致します。

3番目に決めたのは,学習手段として何を使うのか

コンピュータシステムの前身の1つであるプログラミング言語処理系の授業は,私が担当していました。プログラミング言語処理系は私が初めて15週分の全ての授業を新規開講した科目であり,教材設計マニュアルを見ながらインストラクショナル・デザインに取り組んだ最初の授業でもあります。教材設計マニュアルに書かれていることを「真に受けて」講義をせず自習教材で全て完結するようにしました。当然のことながら,プログラミング言語処理系の自習教材を資産として有効に再利用しようと考えていました。
また,学習環境として大学が Moodle という学習管理システム(LMS)を用意しており,学生たちは学習管理システムを使っての授業に慣れていました。私は Moodle に飽き足らず,独自に Canvas という学習管理システムを試験的に導入していましたので,コンピュータシステムでも既にある Canvas を利用しようと考えました。
教室としては PC を使える演習室や,電子回路実験のための広い作業卓のある教室などがあり,授業の特性に合わせてこれらを使い分けることができました。後者はグループワークにも適していることを経験していました。
学生たちのほぼ全員が入学を機に自分用のPCやスマートフォンを所有しており,自宅やモバイルのインターネット環境も持っています。

4番目に決めたのは,教え方の方針やスタイル

まとめるとコンピュータシステムでは次の条件が整っていました。
  • 自ら学ぶ力を習得させたいという思いが強い
  • 大学と自宅両方で十分なICT環境が整っている
  • 学習管理システムを前提にできる
  • 自習用の教材資産もある程度保有している
以上から,アクティブ・ラーニングや反転授業を全面的に導入する方針を決めたのは自然なことでした。さらに,私には既に別の授業でアクティブ・ラーニングや反転授業を導入した経験もあることも後押ししました。

最後に決めたのは,授業内容の範囲

授業内容を基礎に絞ることは,カリキュラム上求められていただけでなく,深く学ばせるのに適するが講義よりも学習時間が多くかかるアクティブ・ラーニングの特性からも必要な施策でした。
一方でコンピュータの動作原理について直観的に理解させることを最初の授業内容として加えることにしました。理由はコンピュータの動作原理の理解が,プログラミング言語処理系やオペレーティングシステムの原理を理解するのに役立つからだけではありません。プログラミングが苦手な学生を観察すると,コンピュータがプログラムをどのように実行するのかが思い描けていないためデバッグに支障をきたしている光景が多く見られたので,コンピュータの動作原理を直観的に理解させることでプログラミング苦手意識の克服にもつながると考えたからでもあります。
これらの考察を踏まえ,コンピュータシステムの授業内容の範囲を絞り込みました。

まとめ

本記事では,授業コンセプトをどのように決めていくか,コンピュータシステムの事例を交えながら説明しました。コンセプトを明確化したことで,授業の設計や評価の方針がぶれなくなることを今後の別記事で紹介していこうと思います。ご期待ください。

「魂は隅々まで宿らせるべきである」は,授業についても言えることです。インストラクショナル・デザインは教育に魂を込めるための技術だと思います。

コメント等は以下にお願いします。

2015年2月11日水曜日

何ができたら「問題解決」したことになるのか〜ガニェの教えからの考察

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「問題解決能力を育みたい!」 教育者のみならず,保護者の方,新人社員を指導する立場の方も,そして文部科学省も,生徒や学生の問題解決能力を育成したいと考えています。そもそも何ができたら「問題解決」したことになるのでしょうか。 今回はこの問題について考えていきましょう。
インストラクショナル・デザイン理論の生みの親の一人,ガニェ(Robert M. Gagne)が提唱した学習成果の5分類は,学習目標を次の5つに大別しています。
  • 言語情報(verbal information)
  • 知的技能(intellectual skills)
  • 認知的方略(cognitive strategies)
  • 態度(attitudes)
  • 運動技能(motor skills)
これらのうち問題解決に主に関わるのは知的技能と認知的方略です。
知的技能についてはさらに次の下位分類があります。番号が大きくなるにしたがって高次な学習目標になります。最も高次な学習目標は問題解決です。
  1. 弁別(discrimination)
  2. 具体的概念(concrete concept)
  3. 定義された概念(defined concept)
  4. ルールと原理(rule and principle)
  5. 問題解決 (problem-solving)
認知的方略については,普通の認知的方略の他に問題解決方略(problem-solving strategy)があります。問題解決と問題解決方略の違いについては後述します。
さて,ガニェは問題解決の本質は何だと考えているのでしょうか。それを読み解くために,問題解決の一つ下の段階であるルールと原理から考えてみましょう。ルールと原理の知的技能の代表例として「1桁の自然数の掛け算」があります。これは,与えられた2つの数(たとえば2と3)に対して「九九」という法則にあてはめて(この例では「にさんがろく」),適切な解(この例では6)を導きだします。一般化すると,与えられた問題に対し題意に沿った法則をあてはめて解を導き出すことがルールと原理の知的技能だというわけです。
もしここで,学習者自らが,観察を続けたり数々の試行を経たりしながら,ある法則を見出したとしたらどうでしょう。これこそ問題解決そのものではないでしょうか。ガニェはまさにそう考えたのです。
そこで,ガニェは問題解決を表す行為動詞として generate と表現しました。直訳は「生成する」ですが,何を生成するのかというと問題を解決する規則を「生成する」ということなんです。
私は「生成する」に代わる問題解決のよりふさわしい行為動詞の訳語として「編み出す」を提案します。問題を解決する新しいやり方を編み出すことが問題解決の本質なのです。
一方,問題解決方略は何でしょう? 認知的方略は一言で言うと「学び方を学ぶ」能力です。言い換えれば,いったん学習のコツをつかんだときに,そのコツを他の問題に応用する力です。もし,ある未知の問題を解決するにあたって,全く別の問題を解決するのに役立つ解決方法をいくつかあてはめたら解決できたとしましょう。それこそが問題解決方略です。
まとめると問題解決と問題解決方略の違いは次の通りです。
  • 問題解決(知的技能): 初見の問題に対し,その解決に必要な新たな法則を編み出す能力
  • 問題解決方略(認知的方略): 初見の問題に対し,既知の方略をいくつか適用して解決する能力
これらは別個の能力だというよりも,問題解決能力を知的技能/認知的方略というそれぞれ別の観点から説明したものだと言えそうです。

ある程度インストラクショナル・デザインの経験を積んだ後に,この本を読むととても深い示唆が得られます。また,授業実践を論文にするときには,この本を辞書代わりにして原著と照らし合わせながら執筆するといいですよ。



質問等は Facebook ,Twitter または右下の「この記事の感想を送る」へどうぞ。

反転授業の研究でも議論がありました。


2015年2月6日金曜日

学習意欲に火をつけよう! 〜ARCS モデル

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一口に学習意欲に火をつけるといっても,何が原因で学習意欲を損ねているのかによって,対処方法を変える必要があります。 
ARCS モデルは学習意欲の4つの類型を表すモデルです。 
  • A: 注意 Attention 目新しいことには学習意欲が湧く
  • R: 関連性 Relevance 自分の身近なことや将来に関連づけられると学習意欲が湧く
  • C: 自信 Confidence やってみてできるようになったことは自信がついて学習意欲が湧く
  • S: 満足 Satisfaction やって満足したことは次もやってみようと思い学習意欲が湧く
ARCS モデルについて学びたい方は,まず次の教材をお試しください。〜さあ ARCS モデルを学ぼう!
大事なことは,どの点で学習意欲が湧かないのかを見極めることです。やみくもにARCSモデルの4つ全ての学習意欲を高めようとするのはやり過ぎです。それを常態化してしまうと,より強い刺激を受けないと意欲を感じなくなってしまいますからね。 
学習者が ARCS どれを刺激するといいかを見極めるにはアンケートを用いるのが一般的です。
さらに ARCS モデルについて深く学びたいとき,さらにどう授業づくりに活かせばいいか知りたいときには 
学習意欲に関する Facebook グループが立ち上がりました 〜学習意欲に火をつけるコンテンツ紹介
学習意欲についてお悩みの方はご相談ください。Facebook, Twitter だけでなく,右下の「この記事の感想を送る」からも質問を受け付けています。

Q&A

Q1

Q. ARCSモデルでの質問です。個別、もしくは少人数であればどの点かを見極めるのは可能だとは思いますが、多人数の講義形式では学生間の理解度・習熟度や興味関心の差から、うまくどの点か1つに絞れないかもしれません。そういう場合にはどうすれば良いのでしょうか? 〜Twitter
A. 単純に一番大きい要因から手を打てば良いんじゃないでしょうか。授業のどの部分に問題があるかの分析と合わせて行えば,どういう手を打つべきかは絞れると思います。

Q2

Q. 最近、会社の新人教育を担当しています。 仕事をする上で(ある意味義務的に)必要とされるスキルを、いかに興味を持たせて教えるかにすごく難しさを感じています。 Attentionをクリアするための、山崎先生のコツ・技みたいなものってお持ちですか? 〜Facebook
A. まず「本当に Attention(注意)が問題なんですか?」という疑問があります。仕事で必要なスキルであれば,Relevance(関連性) すなわち学習者の仕事に直結することを訴えれば動機付けできるかと思うのですが,どうなんでしょうか?
さて,新人が Attention を求めているという状況だということは,新人はずっと研修漬け,とくに座学ばかりなんじゃないかと想像します。 ならば,そもそもそういう状況を改善する必要があると思います。座学で研修するのではなく,演習を主体にしてみるとか,たとえば PBL(Project-Based Learning) つまり何かのプロジェクトを遂行する中で学ばせるような研修にしてみるとか,そんなところじゃないでしょうか。
演習主体の研修にするならば,教材設計マニュアルを参考にするといいです。
どうしても座学で Attention を刺激したいというのであれば,変化させるのが基本です。たとえば,参加意識を高める意味も込めて,問いを投げかけて挙手させる,発言させるという手はどうでしょう。

Q3

Q. 何が「学習意欲」何だろう? 「学習」自体が目的なのだろうか? 会社で、例えば「オブジェクト指向」だったり「テスト駆動」だったりを調べたりすることに興味が特に無いって人でも、その人がやっているゲームの攻略なんかには、自分で色々とトライしたり、ネットで調べたり、攻略本まで買ったりする訳で。果たして彼は、何に学習意欲が高くて、何に学習意欲が低いと言うのか。 私の興味の方向としては、同じ技術を習得するなら修得コストを下げることとか、その技術自体に興味を持って貰うにはどうしたら良いのかということに有ります。 会社の中なんかでは、そこでの仕事に役立つ事項に対する学習意欲が低いということは、その仕事自体への興味が低いということで、学習意欲とは別なのかもと思う今日この頃です。 〜Facebook
A. おっしゃるように学習意欲には次の2つの側面があるように思います。
  • 学習の対象に対する関心・意欲
  • 学習スキル,学習そのものへの関心・意欲
例に挙がっている人は,前者は低いが後者は高い例だと考えられます。また,前者は技術自体に興味を持ってもらうことに,後者は修得コストを下げることにつながります。ARCS のうちの特に関連性は「学習の対象に対する関心・意欲」を扱っています。ARCS の他の要素は,前者・後者両方の可能性がありますね。
後者についてインストラクショナル・デザインでは,ARCSモデルのような学習意欲の問題として捉えるよりは,認知的方略(学び方)の問題として捉えるのが一般的みたいです。認知的方略と学習意欲の関係について研究してみると面白いかもしれませんね。

過去の発言

この記事は次の過去の発言をもとに再構成しました。

2015年1月28日水曜日

反転授業の「学力格差」を解決する2つのアプローチ

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反転授業は,ある意味,学習意欲のある学生とない学生の格差を拡大する教え方です。(それを批判する記事もあります。カリフォルニアの高校で、一部「反転授業」が導入された背景 生徒間の学力格差をワープスピードで拡大する、残酷なツール : Market Hack ) 
今回はこの問題を解決する2つのアプローチを紹介しましょう。

反転授業の「学力格差」を補うには学びあいのグループワークを

一つ目の解決方法として,反転授業に学生同士が互いに学びあうようなグループワークを入れると補完できます。一例として,それまでの学習で生じた技能の格差を埋めるような学びあいのグループワークを行った事例を紹介します(ただしこの事例は2014年時点では反転授業にはなっていません)。この事例「ソフトウェア設計論」という授業では,コンピュータシステムがどのように機能してほしいかを書いた箇条書きの記述を元に設計図を書く技能を習得することを学習目標としています。当然のことながら,技能の習得度合いには個人差がとても大きいです。
そこで,学生同士でグループを作らせて,互いの設計図の答案を交換し,設計図の不備を指摘しあうようなグループワークを課しました。同じ箇条書きの記述を与えられても,勘のいい学生は多くのことに気づくものです。グループワークによってそれを目の当たりにすると,勘の悪い学生でも「なるほど,そんなことも考慮しないといけないのか」と気づくことができます。
反転授業では,動画等で予習するという側面ばかりが注目されますが,それを全員に行き渡らせるためには,「晴れの舞台」である授業の場が鍵となります。予習すればするほど授業で生き生きと活躍できる,そんな動機付けが与えられれば,予習してくるようになります。私が紹介した事例では,他の人の設計図の問題点を指摘すること,それを通して学び合いをすること,そういう要素が動機付けにもなっているというわけです。

コメント1

はい,その逆効果があることを実感することが多々あります。再履修者をクラスに含めてしまうと,ワークショップはやりにくいですね。

完全習得めざして底上げを図れ!

もう一つの考え方は,学習意欲や技能の「格差」が問題ではなく,学習意欲や技能が「低い」学生が存在することが問題だと,問題を捉えなおすことです。この考え方に基づくと,学力の底上げ,すなわち完全習得(mastery)を目指せば良いということになります(完全習得学習については完全習得学習と形成的テストを参照ください。反転授業においても完全習得型反転授業 あるいは Flipped-Mastery model として論じられています。)
この考え方に基づくと,予習時に小テストも合わせて行い,その成績によって授業を組み立てるやり方が考えられます。たとえば小テストが不合格だった学生には個別指導を通して理解につまづいている箇所を特定し再学習させ,小テストが合格だったら高度な課題を与えて深化学習をさせる,という感じです。
このときに小テストを効率良く採点することが重要になります。私の授業では今のところ主に人手でこの採点作業を行っています。もちろん,できれば小テストをeラーニングにして自動化したいところです。現在,徐々に移行しようとしているところです。

コメント2

なんとか大人数授業でも導入したいところなのですが,一足飛びにはうまくいきません。チャレンジ中です。

コメント3

ゲーミフィケーションは,ある意味完全習得を目指す方向性の中の1つのアプローチに位置付けられるのでしょうね。
この記事は反転授業の研究での議論を元に書き下ろしました。

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2015年1月27日火曜日

「学びの竜巻」をもたらす5つの教授方略〜通常の授業スタイルの場合

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「学びの竜巻」とは,ラーニング・パターンで提唱されている理想的な学習スタイルの1つです。
学びの竜巻 Tornado of Learning
与えられた水を、単にスポンジに吸い込むような学びから、 自らの興味・関心の「竜巻」に絡め取っていくような学びへ。
どうでしょう? このような「学びの竜巻」が形成されると,極めて高い学習効果が期待できそうですね。
「学びの竜巻」を生徒や学生に実感してもらうのが,21世紀型の教師の職務だと思うのです。
極めて高い学習効果が期待できる「学びの竜巻」を学生たちにもたらすには,教師はどのようにしたらいいのでしょうか? 今回はこの授業設計を考えてみたいと思います。

ラーニング・パターンからの考察

ラーニング・パターン No.10 「学びの竜巻」の記述から授業設計を考察してみましょう。
受け身で情報を吸収するだけでは、効果的な学びにはつながらない。
自らの興味・関心の「竜巻」に絡め取るように、情報をつかみ、自分がもつ知識と混ぜ合わせ、関係づける。
すなわち,「学びの竜巻」を起こすためには,アクティブ・ラーニングを教授方略の主軸として位置づける必要があります。
何かに取り組んでいるときに必要に迫られて学んだ知識は、しっかりと身につくことが多い。それは、やりたいことを実現するために必要な情報を自らつかみにいくからであり、それを使うために他の知識と関係づけるためである。
このことから言えるのは,アクティブ・ラーニングの中でも,プロジェクト学習(Project-Based Learning) や 問題発見解決型学習(Problem-Based Learning) が適合しそうだということです。そしてどちらの教授方略を採用した場合でも,「学びの竜巻」をもたらすには,得られた経験学習をふりかえって知識体系と関連づけることが肝要だと言えます。よくあるPBLでは,この辺りが甘かったりすることが多く,思ったような効果を上げられません。この観点からは,「学びの竜巻」を起こすには,プロジェクトや問題発見解決のサイクルを数回繰り返すことも大事だと言えます。
さて,「学びの竜巻」をもたらすことは,PBL(すなわちプロジェクト学習や問題発見解決型学習)ではない通常の授業スタイルでできないのでしょうか? 私は授業設計次第で,通常の授業スタイルでも「学びの竜巻」をもたらすことは十分可能だと考えます。その授業設計については後ほど考察します。
アウトプットから始まる学び(No.7)は、まさにその効果を活用する学びの方法である。
したがって得られた知識と経験を他者に伝えることを授業に盛り込むと効果が期待できます。
また、創造への情熱(No.22)がもてるテーマを選ぶというのも、学びの竜巻を発生させるうえで重要となる。
このことからは授業の最初での動機付け,とくに知的好奇心の喚起が重要だと言えます。
教えてくれることを自らつかみ取っていくことは、教わり上手になる(No.13)ためのコツでもある。
したがってアクティブ・ラーニングのアクティビティ,たとえば調べ学習が効果的なのでしょう。 そして教わってから学ぶ順番ではなく,学んでから教わる順番にすることで教わる際の吸収力を高めることもポイントです。

「学びの竜巻」をもたらす5つの教授方略〜通常の授業スタイルの場合

では,通常の授業スタイルで「学びの竜巻」をもたらす授業設計を考えてみましょう。ポイントは次の3点です。
  1. 最初に学習内容の概要と応用を話す。
  2. これから学ぶことを踏まえて発問させる。
  3. 講義に入る前に,キーワードを予習させる。
  4. 講義ではキーワード同士の関連を強調する。
  5. 学んだことを小テストやレポートで記述させる。

1. 最初に学習内容の概要と応用を話す。

これはARCSモデルのR:関連性を喚起する定石です。すなわち,学習者の身近なことや将来につながることに関連するようなことは学習意欲が湧きやすいので,身近な関心事や将来の夢につながりやすい応用分野の話をすると授業の魅力が増すということです。応用について話すことは,学生が自らの興味関心の「竜巻」に絡められる効果も期待できます。学生に情熱を抱かせることができたら大成功です。

2. これから学ぶことを踏まえて発問させる。

これから学ぶことについて知りたいことや素朴な疑問などをノートに書き記してもらいます。発問することで学生が自ら情報をつかみにいく姿勢に移行できます。 また,アウトプットから始まる学びの効果もあります。 もし可能なら,さらに教師が学生からの問いを把握して回答する時間を講義後に設けると満足度が高まるので,より効果的です。

3. 講義に入る前に,キーワードを予習させる。

講義で使われている言葉がわからないと,講義を聴く気が失せてしまいます。 そこで,あらかじめキーワードを予習させることで,この事態を防ぎます。さらに「学んでから教わる」順番にすることで,学生自らつかみとる姿勢を強化します。

4. 講義ではキーワード同士の関連を強調する。

「学びの竜巻」をもたらすには,学習内容と自らの知識や経験とを関係づけることが鍵になります。したがって,キーワード同士の関連を強調し,詳細については思い切って講義時間外に自習させます。講義時間外に自習させることで,アクティブ・ラーニングの要素が強まり,より「学びの竜巻」をもたらしやすくなります。

5. 学んだことを小テストやレポートで記述させる。

学習の仕上げとしてアウトプットさせることは,学んだことを自らが持つ知識体系の中に組み込みやすくする効果があります。 そこで,発表を取り入れたり,学び合いの時間を設けたりすることが効果的です。

まとめ

「学びの竜巻」が形成されると高い学習効果が期待できます。普段の授業の中でも「学びの竜巻」をもたらしやすくするような授業づくりは十分可能です。授業の中で,この記事で紹介した5つの教授方略(教え方)をぜひ試してください。

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2015年1月25日日曜日

ふりかえり: UX Fukuoka ペルソナ/シナリオ法(インタビューと上位下位関係分析法)〜予習編

12月に開催された UX Fukuoka に参加しました。「ブログを書くまでがワークショップ」というわけで書き始めたのですが,なかなか時間が取れず,今回不完全ながらアップすることにしました。
UX Fukuoka は企画・運営側に回ったり,毎回学生を送り込んだりしていますが,私自身が参加するのはまだ2回目?だったりします。
今回の UX Fukuoka に参加する動機は,これから教育活動を支援するウェブサービスを開発するにあたり,UX を考慮したいからです。学生に習得させるだけでなく私自身もきちんと習得しておこうと考えました。
とても残念なことに,スケジュール上,初回のペルソナ/シナリオ法しか参加できないことがわかってしまいました。第2回/第3回は学生に参加してもらうことにします。とくに第2回「構造化シナリオ法」は私が知らない技法だっただけに参加したかった。残念無念 orz

予習

せっかく半日かけて学ぶわけですから,予習をバッチリしておこうと考えました。自分で調べたり,浅野先生,ヨシカワさんにオススメされたりした書籍は次の通りです。
躊躇することなく全部大人買いしましたwww 学ぶことに関して社会人が学生に勝つには,財力と経験と学習意欲を思う存分発揮するのがポイントです。ちなみに学ぶことに関して学生が社会人に勝つには,時間と体力と行動力がポイントでしょうね。なので,社会人と学生ではおのずと取るべき学習スタイルが違ってきます。
最初にエクスペリエンス・ビジョンから読みました。この本は,最近の経営学(とくにビジネスモデルやマーケティング,リーンスタートアップなど)の知識や経験がある人には刺さる本じゃないでしょうか。私もなんとなく漠然と経営と UX の関係を夢想してはいました。エクスペリエンス・ビジョンでこれが具現化されているのを見て「これこそが欲しかったものだ!」と感嘆しました。つまり,エクスペリエンス・ビジョンで想定している読者像=ペルソナは私のように最近の経営学に強い興味を持っている人なんですね。ちなみに経営学の方面でもUX/HCDのように人間を観察し本質的な欲求を考察してソリューションを提示することの重要性が高まっています。現在のフロンティアはこの辺りにあるのですね。
さて,エクスペリエンス・ビジョンで示されているのは,UXを最大限考慮するビジネスの進め方の全体像と事例です。しかし,エクスペリエンス・ビジョンには具体的な手法はあまり書かれていません。そこで役立つのが情報デザインの教室情報デザインのワークショップです。これらの本には手法のレシピが書かれています。もちろんレシピに過ぎないので,実際に指導者のもとでやってみないとわからない部分が多々あります。しかし,どんなことをするのかのイメージはつかめるというものです。
エクスペリエンス・ビジョンに沿って UX Fukuoka のサービスデザイン三部作を概観すると,次のような感じに対応付けられます。
  • 第1回: ペルソナ/シナリオ法(ユーザ設定)
  • 第2回: 構造化シナリオ(バリューシナリオ/アクティビティシナリオ/インタラクションシナリオ)
  • 第3回: ペーパープロトタイピング(視覚化) 
「ブログを書くまでがワークショップ」といいつつ,まだワークショップ本体のふりかえりに到達していません。遅筆でスミマセン。 (続く...)

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2015年1月23日金曜日

積極的に失敗させよう〜プロジェクト学習を成功させる3つの教授方略

Learningにおいて最も大切なのは、トライアル・アンド・エラーすることができる場です。 うまくいくかどうか分からない状況でチャレンジすることこそが、成長につながるのです。
私も試行錯誤(トライアル・アンド・エラー)の体験,とりわけ失敗を恐れずに積極的にチャレンジすることがとても大事だというのに強く共感します。失敗した経験が少ないと,ちょっとした失敗ですぐに挫折してしまう打たれ弱いマインドになってしまいます。そういう失敗を恐れるマインドだと,積極的にリスクをとって新しいことに挑戦できません。現代日本に閉塞感を感じているとしたら,そういうリスクを回避する社会の雰囲気に起因するのではないでしょうか。
話を学習に戻すと,このような失敗を恐れない試行錯誤の体験は経験学習の観点からも有用であると言えます。経験学習入門には,経験学習すなわち経験から学ぶことで学習効果を高めるには,次の3つの要素が重要だとまとめています。
1.ストレッチ: 問題意識を持って,新規性のある課題に取り組む
2.リフレクション: 行為を振り返り,知識・スキルを身につけ修正する
3.エンジョイメント: 仕事のやりがいや意義を見つける
失敗を恐れずに挑戦するというマインドは,この中の「ストレッチ」に直結します。それができるようになるためには,挑戦するための土台,すなわち試行錯誤する場が重要な鍵だと経験学習入門では説いています。
田原さんのブログ記事に戻りましょう。
しかし、子どもや、生徒に対してとなると、別の難しさが生まれます。 「失敗しないで、成功させてあげたい」 という気持ちが生まれてしまうのです。
田原さんのおっしゃるように,学習者に試行錯誤をさせることは,指導者にとってはなかなか難しいことだったりします。
この「失敗から学ばせる」ことと「失敗しないで成功させたい」という思いのジレンマは,卒業研究指導や,経験学習の代表的な教授方略の1つ,プロジェクト学習 (PBL: Project-Based Learning)においても,しばしば起こりがちです。とくにプロジェクトが1回こっきりだと,何としても成功させなくてはという圧力がかかりがちです。そのような状況下では,失敗を恐れてしまい,有効なチャレンジに結びつきません。
では,どのようにしたらいいのでしょう? プロジェクトが1回こっきりだから「成功しなければ」という圧力がかかるのです。なので,プロジェクトを数回繰り返して,失敗して学習する機会を多くすることが第1のポイントです。
次に,経験学習入門でいう「リフレクション」すなわち,失敗から学ぶふりかえりの時間をプロジェクトの中に織り込むことが第2のポイントです。ありがちな PBL では,プロジェクト遂行ばかりに頭がいってしまい,プロジェクトを終えた後に十分なふりかえりの時間を確保していないことが多いです。それでは有効な学習に結びつきません。
もちろん田原さんの主張するように,失敗した時に致命的なことにならないように支援することが大事なことは言うまでもありません。
この3つをプロジェクト学習に取り入れることで,失敗を許容し失敗から学ぶことができるようなマインドが生まれてきます。ぜひ授業づくりに取り入れてみてください!
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