2010年11月27日土曜日

Apple 戦略論 Part 2

最近私が気づいた「これって Apple の常套手段じゃね?」という戦略の話をします.

その戦略は次のような流れです.

  1. 第1世代の製品では,わざとツボを外したしょぼい「こんなの誰が買うんだ」的な製品を販売する.
  2. その実製品で市場動向や技術的課題をリサーチする.
  3. 第2世代以降で満を持して本気の製品をリリースして,世間をアッといわせて市場を総取りする.
この実例はとても多いです.最近では Apple TV がこのパターンに該当すると考えています.iPod も2001年に第1世代が登場した当初は散々な評価でした.

変形パターンの戦略は次の通りです.
  1. 隠し機能を仕込んで販売する.
  2. その実製品で市場動向や技術的課題をリサーチする.
  3. 隠し機能を別製品に本格展開する.
この実例としては加速度センサーが挙げられます.iPhone で大々的に取り上げられた加速度センサーは,最近知られたことですが,実はそれ以前に MacBook に隠し機能として搭載されていました.MacBook が落下したときにハードディスクのヘッドを待避するために装備されたのです.当時,既に加速度センサーつきのハードディスクは実用化されていましたが,高級品でした.加速度センサーが装備されていない安価なハードディスクを利用できるようにと,MacBook 本体側に装備したのです.

この戦略パターンで解決する問題は次のようなことです.
  • 前例のない新製品を,いきなり大々的に市場に投入するのは,マーケティング面でも実現技術面にも生産面でもリスクが高い.
  • 一方で,新製品の真の課題を明らかにするには,βテストで得られる情報だけでは足りない可能性がある.
Apple が目を付けたのはキャズムによる時間差です.Apple には固定客として新し物好きの人たちがついています.世間でどんなに酷評されていても新製品に飛びつく熱心なファンがいます.このような人たちが喜んで求めて,かつマジョリティである一般消費者が手を出さないようなスペックの製品を最初に出すのです.そうすることで意図的に市場を狭く設定します.

市場を狭く設定する理由は,大量生産によるリスクを回避するためです.もし最初から大量生産していると,クレームがつくような事態になったときに,サポートはパンクします.設備投資面でも大きなリスクを抱えるでしょう.何より,マーケティング的に手探り状態で市場に大量投入すると,大量の在庫を抱える事態になります.

新し物好きの人たちはブログや雑誌等に使用感や直面した問題を詳細に記述した記事を書くことがしばしばあります.そういうことを生き甲斐や商売にしている人たちが多いのです.そのような詳細なレポートは,マーケティング面でも技術面でも有益な情報源となります.

そういう「失敗してもいい」試行期間を設定することが大きな意義になります.Apple が次々と打ち出す大胆な戦略は,こういった市場を巻き込んだ意図的な試行錯誤の過程を経て完成度を高めているのではないか?というのが私の仮説です.

この戦略は,Apple ほどのブランドを持っているからこそできる戦略です.普通のメーカーがこの戦略をとったならば,総スカンを食らって市場から退場せざるを得ないでしょう.どんな製品を出しても買ってくれる固定客がいるからこそ,その人たちを人柱にする戦略が成り立つのです.