2013年3月7日木曜日

大福帳が授業満足度に与える影響

私の授業「プログラミング言語処理系」に大福帳を導入してみました。その結果,授業評価アンケートで集計した授業の満足度(5点満点)が0.47ポイント向上しました。

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大福帳については次の Google 検索で色々紹介されていますので,ご参照ください。
http://www.google.co.jp/search?q=大福帳+授業

比較対象は2011年度と2012年度の「プログラミング言語処理系」という授業です(シラバスはこちら)。この授業は,一般的な講義を行う授業ではなく,教科書と教材設計マニュアルに基づいて作成した自習教材を元に各自演習するという一風変わった授業スタイルを取っています。 2011年度と2012年度で異なる条件は次のとおりです。

  • 大福帳: 2011年度 未実施,2012年度 実施
  • 補助テスト(コンピュータの動作原理): 2011年度 未実施,2012年度 実施
  • 履修者数: 2011年度 66名,2012年度 58名
  • アンケート有効回答数: 2011年度 60名,2012年度 43名
基本的には授業満足度に影響を与える条件の違いは大福帳と履修者数,有効回答数です。補助テストは2013年度から始まる新カリキュラムに向けて実態調査をする目的で導入したもので,授業満足度に対して大きな影響はないと考えられます。履修者数が若干減ったことで授業満足度が向上する可能性や,有効回答数が減ったことで好意的な回答ばかりが集まった可能性もありえます。しかしながら,授業を行った主観的な実感としては,授業満足度に与える影響のほとんどの部分は大福帳の有無ではないかと思います。その根拠は,大福帳に寄せられた学生たちのコメントからの推察です。

大福帳といっても,かなり簡便な方法を取りました。
  1. 氏名と授業回15週に区切った学生がコメントを記述する欄を両面印刷したA41枚の用紙を準備します。(教員コメント欄は設けませんでした)
  2. 毎回の授業の最初に大福帳を各学生に配布し,授業中に感想・コメント等を記述してもらって,授業の最後に回収しました。
  3. 教師は授業時間外に,大福帳の感想・コメント等を読みます。何か書かれていた場合には,シャチハタ印を押印し,時には回答やコメントを記入します。書かれていない場合には斜線を引きます。すべての大福帳に教師の回答やコメントを書くわけではないという点がポイントです。ここで頑張り過ぎると続かないと思ったので,そうしています。大福帳にかける時間は毎週30分程度です。
  4. 中間・期末試験でもコメント欄を設けて大福帳として感想・コメント等を記述してもらいました。
  5. 15回の授業のうち2回だけ Moodle による電子的な大福帳を試行したことがあります。
毎年大学が実施している授業評価アンケートは次のように実施しています。
  • センター試験で用いるようなマークシート式の専用紙を用います。
  • 設問は次のとおりです。
    • 学生のプロフィールを聞く質問が3問(非公開)
    • 授業の進め方や成績評価基準について授業やシラバスで明確な説明があったか
    • 授業の内容に興味が持てるような工夫が行われていたか
    • 授業は,皆さん(学生)の理解度等を把握しながら進められたと思うか。
    • 担当教員の熱意を感じたか。
    • 授業は総合的に満足したか。
  • 各設問について「全くそう思わない」「そう思わない」「どちらともいえない」「そう思う」「強くそう思う」の5つから選択します。
  • 集計は,各設問について,「全くそう思わない(1ポイント)」「そう思わない(2ポイント)」「どちらともいえない(3ポイント)」「そう思う(4ポイント)」「強くそう思う(5ポイント)」として合計し,有効回答数で割ります。
結果は次の通りでした。
  • 2011年度(大福帳なし)
    • 3.82ポイント: 授業の進め方や成績評価基準について授業やシラバスで明確な説明があったか
    • 3.55ポイント: 授業の内容に興味が持てるような工夫が行われていたか
    • 3.42ポイント: 授業は,皆さん(学生)の理解度等を把握しながら進められたと思うか。
    • 3.68ポイント: 担当教員の熱意を感じたか。
    • 3.55ポイント: 授業は総合的に満足したか。
  • 2012年度(大福帳あり)
    • 4.16ポイント(+ 0.34) : 授業の進め方や成績評価基準について授業やシラバスで明確な説明があったか
    • 4.06ポイント(+0.51): 授業の内容に興味が持てるような工夫が行われていたか
    • 3.88ポイント(+0.46): 授業は,皆さん(学生)の理解度等を把握しながら進められたと思うか。
    • 4.00ポイント(+0.32): 担当教員の熱意を感じたか。
    • 4.02ポイント(+0.47): 授業は総合的に満足したか。
大福帳を導入することで実感した効果は次のとおりです。
  • 学生の学習進捗,とくにどこでつまづいているかが手に取るようにわかりました。そのことを利用して自習時間中に効果的に個別のフォローアップを行うことができました。また2013年度に授業を改善すべき点も明確にすることができました。
  • 学生の個性とくに関心事を把握することができました。大人数講義では学生の顔が見えないものですが,どういう学生がいるのかを把握するのに有用な情報が得られました。また,授業で例として取り上げる題材についてもヒントが得られました。
  • 学生が持つコミュニケーションに関する潜在能力を知ることができました。学生にコミュニケーション能力がないと言われて久しい昨今ですが,引き出し方次第でコミュニケーション能力を効果的に向上させることが可能なのではないかと感心しました。